郵便法

第一條

郵便ハ政府之ヲ管掌ス

第二條

何人ト雖信書ノ送達ヲ營業ト爲スコトヲ得ス

運送營業者及其ノ使用人ハ其ノ運送方法ニ依リ他人ノ爲ニ信書ノ送達ヲ爲スコトヲ得ス但シ貨物ニ添附スル無封ノ添狀又ハ送狀ハ此ノ限リニ在ラス

第三條

運送營業者ハ郵便官署ノ要求アルトキハ其ノ運送方法ニ依リ郵便物ノ運送ヲ拒ムコトヲ得ス此ノ場合ニ於テ郵便官署ハ相當ノ運送料金ヲ支給ス

第四條

職務執行中ノ郵便遞送人郵便集配人及郵便專用車馬等ハ道路ニ障碍アリテ通行シ難キ場合ニ於テ墻壁又ハ欄柵ナキ宅地田畑其ノ他ノ場所ヲ通行スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ郵便官署ハ被害者ノ請求ニ因リ其ノ損害ノ賠償ヲ爲スへシ

第五條

職務執行中ノ郵便遞送人郵便集配人及郵便專用舟車馬等事故ニ遭遇シタル場合ニ於テ郵便遞送人郵便集配人又ハ郵便吏員ヨリ助力ヲ求メラレタル者ハ正當ノ事由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス此ノ場合ニ於テ郵便官署ハ助力者ノ請求ニ因リ相當ノ報酬ヲ爲スへシ

第六條

職務執行中ノ郵便遞送人郵便集配人及郵便專用舟車馬等ニ對シテハ渡津、運河、道路、橋梁其ノ他ノ場所ニ於ケル通行錢ヲ請求スルコトヲ得ス

職務執行中ノ郵便遞送人郵便集配人ハ何時ニテモ渡津ノ出船ヲ求ムルコトヲ得

第七條

郵便專用ノ物件及現ニ郵便ノ用ニ供スル物件ハ之ヲ差押フルコトヲ得ス

郵便專用ノ物件ハ何等ノ賦課ヲ受クルコトナシ

郵便物及其ノ取扱ニ必要ナル物件ハ海損ヲ分擔セス

第八條

郵便官署ハ郵便物ノ遞送中又ハ其ノ發送ノ準備完了ノ後ニ限リ其ノ差押ヲ拒ムコトヲ得

第九條

郵便物檢疫ヲ受クへキ場合ニ於テハ他ノ物件ニ先チテ直ニ檢疫ヲ受ク

第十條

郵便取扱ニ關シ無能力者ノ郵便官署ニ對シテ爲シタル行爲ハ能力者ノ爲シタルモノト看做ス

第十一條

郵便官署ハ郵便物又ハ郵便ニ依ル取立金ノ受取人ノ眞僞ヲ調査スル爲受取人ヲシテ必要ナル證明ヲ爲サシムルコトヲ得

第十二條

郵便物ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外其ノ宛所ニ配達ス

第十三條

郵便物ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニ限リ差出人ノ請求ニ因リ之ヲ還付スルコトヲ得

第十四條

宛所ニ配達シ又ハ受取人ニ交付スルコト能ハサル郵便物ハ差出人ニ還付ス其ノ差出人ニ還付スルコト能ハサルモノハ主務大臣ノ指定シタル郵便官署ニ於テ之ヲ開披スルコトヲ得

第十五條

前條ニ依リ開披シタル郵便物ニシテ尚配達還付ヲ爲スコト能ハサルモノ及郵便ニ依ル取立金ニシテ拂渡ヲ爲スコト能ハサルモノハ之ヲ公示ス

郵便物ニ封入シタル物件ニシテ有價物ニ非サルモノハ其ノ公示ノ日ヨリ六箇月内ニ交付ヲ請求スル者ナキトキハ之ヲ棄却シ其ノ有價物ニシテ滅失若ハ毀損ノ虞アルモノ又ハ其ノ保管ニ過分ニ費用ヲ要スルモノナルトキハ之ヲ賣却シ其ノ代金ヲ保管ス但シ賣却ニ要スル經費ハ直ニ賣却代金ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得

有價物、賣却代金及郵便ニ依ル取立金ハ公示ノ日ヨリ二箇年間交付ヲ請求スル者ナキトキハ國庫ノ所有ニ歸ス

第十六條

郵便官署ハ郵便物ニ郵便禁制品ヲ封入シ又ハ成規ニ違反シテ差出タル物件アリト認ムルトキハ差出人ニ其ノ開示ヲ求ムルコトヲ得

差出人其ノ開示ヲ拒ミタルトキハ其ノ取扱ヲ拒絕ス

第十七條

郵便物ハ通常郵便物及小包郵便物トス

第十八條

通常郵便物ノ種類及料金ハ左ノ如シ

第一種 書狀 重量四匁又ハ其ノ端數每ニ 金三錢
第二種 郵便葉書
  1. 通常葉書 金一錢五厘
  2. 往復葉書 金三錢
  3. 封緘葉書 金三錢
第三種 每月一回以上刊行スル定期刊行物
  1. 一號一箇重量二十匁又ハ其ノ端數每ニ 金五厘
  2. 二號又ハ二箇以上一束重量二十匁又ハ其ノ端數每ニ 金一錢
第四種 書籍、印刷物、業務用書類、寫眞、書、畫、圖、商品見本及雛形、博物學上ノ標本 重量三十匁又ハ其ノ端數每ニ 金二錢
第五種 農産物種子 重量三十匁又ハ其ノ端數每ニ 金一錢

前項各種ニ該當セサル物件及該當スルモ封緘シタルモノハ第一種郵便物ト同一ノ取扱ヲ爲ス

異種ノ郵便物ヲ合裝シタルモノハ其ノ種類中ノ最高料金ヲ納付スヘキ郵便物ト同一ノ取扱ヲ爲ス但シ第二種郵便物ヲ他種ノ郵便物ト合裝スルトキハ第一種郵便物ト同一ノ取扱ヲ爲ス

郵便葉書ノ表面又ハ第三種乃至第五種ノ郵便物ニ通信文ヲ記載シタルモノハ第一種郵便物ト同一ノ取扱ヲ爲ス

第十九條

小包郵便物ノ料金竝郵便物ノ特殊取扱ニ關スル料金ハ命令ノ定ムル所ニ依ル

第二十條

書狀ハ小包郵便物ト爲シ又ハ小包郵便物ニ合裝スルコトヲ得ス但シ無封ノ添狀又ハ送狀ハ此ノ限リニ在ラス

第二十一條

第三種郵便物ト爲スヘキ定期刊行物ハ主務官署ノ認可ヲ受ケタルモノニ限ル

第二十二條

郵便禁制品ノ種類及郵便物ノ容積、重量、包裝等ニ關スル制限ハ命令ノ定ムル所ニ依ル

第二十三條

受取人ハ郵便料ヲ完納シタル郵便物ノ受取ヲ拒ムコトヲ得ス

差出人ハ還付郵便物ノ受取ヲ拒ムコトヲ得ス

第二十四條

郵便ニ關スル既納及過納ノ料金ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外之ヲ還付セス

第二十五條

命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外郵便料未納又ハ不足ノ郵便物ハ受取人其ノ不納額二倍ノ料金ヲ納付シテ之ヲ受取ルコトヲ得其ノ納付ヲ拒ミタルトキハ差出人ニ還付シ差出人ヨリ之ヲ徵收ス

第二十六條

郵便ニ關スル料金納付ノ義務ハ其ノ納付スへキ日ヨリ六箇月内ニ納付ノ告知ヲ受ケサルニ因リテ消滅ス

第二十七條

郵便ニ關スル料金ノ不納金額ハ郵便官署ニ於テ國税滞納處分ノ例ニ依リ之ヲ徵收ス

前項ノ不納金額ニ付郵便官署ハ國税ニ次キ先取特權ヲ有ス

第二十八條

郵便、郵便爲替、郵便貯金、電信、電話ノ事務ニ關スル郵便物ハ無料ト爲スコトヲ得

第二十九條

郵便ニ關スル料金ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スヘキ證票ヲ以テ納付スへシ

第三十條

郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スヘキ證票ハ政府之ヲ發行ス

第三十一條

郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スヘキ證票ノ汚斑毀損シタルモノハ其ノ效力ヲ失フ

第三十二條

成規ノ手續ヲ經テ郵便物又ハ郵便ニ依ル取立金ヲ交付シタルトキハ正當ノ交付ヲ爲シタルモノト看做ス

第三十三條

成規ニ依リ差出シタル郵便物ノ取扱ニ關シ郵便官署ハ左ノ場合ニ限リ其ノ損害ヲ賠償ス

  1. 書留郵便物ヲ亡失シタルトキ
  2. 小包郵便物若ハ價格表記郵便物ヲ亡失又ハ毀損シタルトキ
  3. 郵便ニ依ル取立金ノ證券ヲ亡失シ又ハ其ノ效力ヲ失ハシメタルトキ

賠償金額ハ命令ノ定ムル所ニ依ル

第三十四條

郵便物交付ノ際外部ニ破損ノ痕跡ナク且ツ重量ニ變易ナキトキハ損害ナキモノト看做ス

第三十五條

第三十三條ノ場合ト雖左ノ事項ニ該當スルトキハ損害賠償ノ限リニ在ラズ

  1. 差出人又ハ受取人ノ過失ニ因リタルトキ
  2. 不可抗力ニ因リタルトキ
  3. 其ノ郵便物ノ性質又ハ瑕疵ニ因リタルトキ
第三十六條

郵便物ノ差出人又ハ受取人ハ其ノ郵便物ニ損害アリト認ムルトキハ其ノ受取ヲ拒ムコトヲ得但シ郵便物受取ノ後ハ異議ヲ申立ツルコトヲ得ス

第三十七條

第三十三條ニ依ル損害賠償ハ差出人又ハ其ノ承諾ヲ得タル受取人之ヲ請求スルコトヲ得

第三十八條

本法ニ依ル損害賠償又ハ報酬ノ請求權ハ主務大臣ノ指定シタル郵便官署ニ對シ左ノ期間内之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス

  1. 第四條ニ依ル賠償及第五條ニ依ル報酬ハ其ノ事實アリタル日ヨリ三箇月
  2. 第三十三條ニ依ル賠償ハ郵便物差出ノ日ヨリ二箇年
第三十九條

郵便官署ノ損害賠償又ハ報酬ニ關スル決定ニ對シ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得

第四十條

郵便官署ニ於テ損害賠償ヲ爲シタル後其ノ郵便物ヲ發見シタルトキハ之ヲ其ノ賠償受領者ニ通知スへシ此ノ場合ニ於テ賠償受領者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ六箇月以内ニ賠償金ノ全部又ハ一部ヲ返付シテ其ノ郵便物ノ交付ヲ請求スルコトヲ得

第四十一條

第二條ニ違反シタル者ハ二月以上二年以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス

前項ノ場合ニ於テ收得シタル金錢物品ハ之ヲ沒收シ既ニ消費又ハ讓渡シタルモノハ其ノ金額又ハ代價ヲ追徵ス

第四十二條

第三條ニ違反シタル者ハ十圓以上千圓以下ノ罰金ニ處ス

第四十三條

第四條ノ場合ニ於テ通行ヲ拒ミ又ハ第五條ノ場合ニ於テ正當ノ事由ナクシテ助力ヲ拒ミ又ハ第六條ノ場合ニ於テ通行錢ヲ强要シ若ハ正當ノ事由ナクシテ渡津ノ出船ヲ拒ミ又ハ第二十三條ニ違反シテ郵便物ノ受取ヲ拒ミタル者ハ科料ニ處ス

第四十四條

郵便官署ノ取扱中ニ係ル信書ノ祕密ヲ侵シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ二十圓以下ノ罰金ヲ附加ス

郵便事務ニ從事スル者前項ノ所爲アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ

本條ノ罪ハ被害者ノ告訴ヲ待テ之ヲ諭ス

第四十五條

第二十條ニ違反シタル者ハ十圓以下ノ罰金ニ處ス

第四十六條

郵便禁制品ヲ郵便物トシテ差出シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ物件ヲ沒收ス

第四十七條

不正ノ手段ヲ以テ郵便ニ關スル料金ヲ免レ又ハ免レムトシタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス

郵便事務ニ從事スル者前項ノ所爲アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ

第四十八條

帝國政府及郵便聯合條約國政府ノ發行スル郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スへキ證票ヲ僞造變造シ又ハ其ノ情ヲ知テ之ヲ使用シタル者ハ一年以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス

前項ノ郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スヘキ證票ハ之ヲ沒收ス

第四十九條

帝國政府及郵便聯合條約國政府ノ發行スル郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スへキ證票ヲ再ヒ使用シタル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス

第五十條

郵便事務ニ從事スル者郵便官署ノ取扱中ニ係ル郵便物ニ使用シタル郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スへキ證票ヲ剝脱切取シタルトキハ三圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ未ダ消印ヲ爲ササルモノニ關シテハ刑法竊盜ノ罪ニ照シテ處斷ス

第五十一條

郵便事務ニ從事スル者郵便官署ノ取扱中ニ係ル郵便物ヲ竊取シタルトキハ刑法竊盜ノ例ニ照シ一等ヲ加フ

第五十二條

郵便官署ノ取扱中ニ係ル郵便物ヲ正當ノ事由ナクシテ開披、毀損、隱匿若ハ抛棄シタル者又ハ受取人ニ非サル者ニ交付シ若ハ情ヲ知テ之ヲ受取リタル者ハ一月以上二年以下ノ重禁錮ニ處シニ十圓以下ノ罰金ヲ附加ス

郵便事務ニ從事スル者前項ノ所爲アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ

第五十三條

正當ノ事由ナクシテ郵便物ノ取扱ヲ拒絕シ若ハ其ノ送達ヲ遲延セシメタル者又ハ重大ナル過失ニ因リ郵便物ヲ失ヒタル者ハ四圓以上四十圓以下ノ罰金ニ處ス

第五十四條

郵便專用ノ物件其ノ他現ニ郵便ノ用ニ供スル物件ヲ破壞損傷シタル者ハ一月以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス

第五十五條

第四十七條ヲ除クノ外前數條ニ記載シタル輕罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ刑法未遂犯罪ノ例ニ照シテ處斷ス

第五十六條

郵便物ニ關シ條約ニ別段ノ規定アルモノハ各其ノ規定ニ依ル

附則

第五十七條

本法ハ明治三十三年十月一日ヨリ之ヲ施行ス

郵便條例中第十二章及第二百四十二條以外ノ條項小包郵便法及郵便聯合國郵便切手類保護法ハ之ヲ廢止ス

第五十八條

本法施行前ニ差出シタル郵便物ニ關シテハ郵便條例及小包郵便法ヲ適用ス